森の宿の物語 > 最終話:帰りたくなる場所

最終話です。

では、最後までお楽しみくださいませ。




スクエアの窓から見える空は
今日も綺麗で、

昨日のチェックイン後の空とはまた違った
空の色をしていた。

昨夕、
朝は早く起きたらご飯まで余裕があるし
ご飯を食べた後も11:00までには余裕がある。

そんな風に思っていたけど、
実際は、あまりにも心地が良すぎて、

ご飯までの時間は一瞬だったし
ゆっくりご飯を食べてたので
チェックアウトまで残り1時間半というのが現実。

やっぱり
〝楽しい時間はあっという間〟というのは本当だ。


ふかふかのタオルで顔をふいて、
急いで支度をして、山の上の雑貨店へ向かった。


カランカラン…


「あ、おはようございます!
ゆっくりできましたか〜?」

なんだかもう前から知り合っていたかのように
沢山話をしながら自分へのお土産を選ぶ。

タオルとサイダーだけは買うことを決めていた。

が…

ここにくるとダメだ。
お部屋にあったものがどんどん欲しくなってしまう。


カランカラン..

「最後までゆっくりしていってくださいね〜」


結局、両手には大きな紙袋。
バーゲンにでも行ったのかというような量だ。笑

荷物を一旦車に乗せて、
お部屋に戻って残りの荷物を片付ける。

チェックアウトまで残り10分。

忘れ物がないかをチェックして、
もう一度空を眺めて、外へ出る。


なんだろう、不思議な感覚。

少し暮らしていた場所を出るような、
少し切ない、寂しい、そんな感覚。

〝また泊まりにきます〟
そう心の中で呟いて、鍵をかける。


「ごめんなさい!
ギリギリになってしまって!!」
そう言ってチェックアウトをした。


実は、皆さん同じようなことをおっしゃるのです。

不思議と朝早く起きても
あっという間に時間が過ぎて
気付けばチェックアウトギリギリの時間で…と。

〝ギリギリの時間まで居てしまう〟って、
それほど嬉しい言葉はない。

いつもニマニマしながら
朝、みなさんとお話するのが僕の楽しみ。


そして、お話をしている内に
こぞらのおやつがオープンする。


「こぞらのおやつが開きましたよ!」

「では、行ってきます!」




ガラガラ..

わぁ!!!!

昨夕空っぽだったガラスケースには、
いっぱいの焼き菓子が入っていた。

これはこれでダメだ…
全部欲しくなってしまう…

結局、持ち帰り用に8つと、
今食べる用に2つ、そしてアイス珈琲を注文した。


心地が良すぎる…

鳥たちがさえずる中、
そよ風をあびながら、
こんな景色を見ながら、
マフィンを片手に、
珈琲を飲む。


昨日から、この場所で過ごした時間を思い返す。

〝衣・食・住〟が体験できる場所ってきいて、
体験ってなんだ?って思って来たけど、
こういうことか。


ここへ来る前と今とでは
確かに変わっていた感覚があった。

移り変わる空を眺めて
森からきこえてくる鳥や風の音をきいて
お部屋にあるいろんなものに触れてみて
木々や食べ物の香りを匂って
その空気の中こうして食べて

そう、人間が持っている〝五感〟
これがすごく研ぎ澄まされていたのだ。


小さい頃は、これぐらい全てに敏感で
毎日に新しい発見があって、
ずっとワクワクしていた気がする。

でも、いつの間にかこんな大切な感覚を
忘れてしまっていた。



ここは、そんないつの間にか忘れていた
大切なことを思い出させてくれる場所であり、
大人でも新しいことを発見できる場所でもある。

だから、また思い出すし、
また帰りたくなる。

また、必ず違う季節に来よう。


こうして旅人は、
大切なものをポケットにしまって
日常へ戻っていくのであった。


__________fin.___________________________________


最後まで読んでいただき
本当にありがとうございます。

楽しみに読んでいますというお声をいただく度に
ニヤニヤとしながらお届けをしておりました。

ぜひ、次はこの場所でお会いしましょう。