森の宿の物語 > 14話:日々ここにある風景

お話の続き。


あっという間に時間は過ぎていて
気付けばもう空の色が変わっていた。

そう言えば、ここにきてから
時計を見ずに空の色で
だいたい今何時かを判断していた。

それと同時に
日常の中で、あれほど気にしてる時計を
気にしていないこの感覚が
たまらなく心地いいことにも気付く。


パチッ。

こぞら荘にある小屋にあかりが灯った。

そういえばこの小屋にはまだ行ってなかった。
薄暗い中、小屋に書いてある文字を読む。

へぇ〜
日々ここにある風景って名前なのか。


そう、この小屋の名前は、
「日々ここにある風景」

ワークショップをしたり、
個展をしたりする空間で、
催し物がない時は、中でゆっくりして頂けるのです。

そして、どなたでもイベントを
していただける貸しスペースでもあります。

※ご希望の方は、ご気軽にお尋ね下さいませ。



どうやら、今日は何もしていないようなので
中に入ることにした。

真ん中にテーブルが一つ。
その周りに丸椅子がちらほら。

右側には棚がひとつと、ドライフラワー。

ちょうどいいサイズの空間。
そしてこの静けさと
流れる音楽がまた心地いい。


なんだか、〝すごく落ち着く。〟


そう、そのようによく皆さんからも
お話をいただきます。

壁は淡路島の土壁で、
この土壁のあたたかさのせいなのか
なんだかここだけは他と違う空気が流れている
そんな気がするのです。


遠くにある飛行機雲を見ながら考える。

ご飯、どこに食べに行こうかなぁ…

あまりの心地よさについうとうとしてしまう。


しばらくすると、夜に鳴く虫の声がきこえてきて、
心なしか肌寒くなった気もして、
ハッとして目が覚めた。


さて、一回部屋に戻るか。


ぐ〜〜っと伸びをして、
お部屋までの13段をのぼっていく。


ここにいると、
子どもの頃を思い出して
なんだか懐かしい気持ちになる。

夕日が綺麗とか
雲が綿菓子に見えるとか
いい匂いがするとか
この植物はなんだろう?とか
サイダーが美味しいとか

純粋に感じたことがそのまま
何のフィルターにかけられることもなく
直接的に感じる。


歳をとるにつれて忘れつつあった感覚、
つい後回しにしてしまっていた感覚、
そんな大事なものを思い出させてくれる
そんな時間を過ごしている気がする。

珍しく、そんなことを思いながら
部屋に戻ったのであった。



続きは次回。